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「もちろん、このことについて説明してくれるんだよな?」
セレーヌ・アデライードと名乗る女性にここで少し待つようお願いし、俺は博士とふたりで、少し離れた場所で話し合う。彼女は護衛と談笑しているようだ。
「さっきも言っただろう? 男のひとり旅とは退屈だ。華でも添えてやろうかと思ってな」
博士に限って、そんな小粋なことをするわけがない。
「見え透いた嘘をつくな。アデライードと言えば、イーリスの貴族だ。そこの娘が非正規作戦に従事するなんてことは、よほど特異な事情があるんだろ? 正当な説明がない限り納得しないぞ」
イーリスは、共和国になるまえは王国。その王政を守っていたのが貴族たちだった。中でもアデライードは代々軍人を輩出する家柄で、その多くが将校になっている。華々しい経歴を持つそんな貴族が、このような汚れ仕事に関与するはずがない。軍との関係が深いことから、今回の作戦を知っていたのは想像がつくが、だからこそ理解できなかった。
「アデライード家直々に要請があったんだ。昨今は平和で、戦いはほとんどない。軍人の家系である以上、軍事研究を総括する私に接近しておくことで、今後のアデライード家の未来を担保しておきたいのだろう」
だからと言って、自分たちの家名を汚すようなことをするのだろうか。
「博士の差し金ではないんだな?」
「ああ」
「本当だな?」
「この状況で嘘は言わんよ。お前に任務を降りてほしくないからな」
「……そもそも、未経験者を戦地に連れて行けということに無理がある」
実戦を経験していない者を作戦に同行させるのは自殺行為だ。”よりによって”、アデライード家の当主はそのような決断を下すとは。
「実戦なんだぞ? 弾が当たれば痛いし、一発でも受ければ大抵あの世行き。死にそうになっても、敵と自分のあいだに割って入るレフェリーなんていない」
気づけば、セレーヌは周りの護衛全員を集めて楽しそうに話している。
「その通りなんだが、今回の要請に当たって、それなりの金額を受け取っていてな。断るに断れないんだよ」
「勝手なことを……」
申し訳なさそうに話す博士だが、絶対謝罪の気持ちなど持ち合わせていない。表情には表れていないが、思いもよらぬ研究資金が手に入ったことで、彼は夏休みを目前に控えた子供の如く喜んでいるはずだ。
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