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「旅行じゃないんだがな。どうしたものか……」
「彼女は軍の基本課程を修了している。戦闘訓練も十分で、成績はかなり優秀らしいぞ」
「そういう問題では――」
俺の反論を予期していたかのように博士は話す。
「お前は彼女を守らなければならないと考えているようだが、それは違う。今回の作戦に参加するに当たって、セレーヌ・アデライードの身の保障は一切しなくていいそうだ。当主のエルキュールからはそう聞いている」
「は?」
アデライード家は彼女に死ねと言っているのに等しい。セレーヌは、なにかしでかしたのだろうか?
「だから、お前は作戦の遂行に集中すればいい」
「……」
俺がさきほどの言葉に衝撃を受けて沈黙していると、博士は会話を止めてセレーヌの元へ戻る。
「待たせて申し訳ない。ちょっと作戦の確認を取っていたんだ」
「いえ、お気になさらず」
彼女は健気な笑顔で答える。
「今日はカニアの軍施設を使って準備をしてくれ。明朝7時に作戦を決行する。ロイ、彼女を頼んだぞ」
もう時計は十九時を回ろうとしており、あまり悠長に構えてはいられない。そう思っていると、博士と護衛、セレーヌを連れてきた者は車へ乗り込み、走り去ってしまった。
「ええと、セレーヌさん――」
「セレーヌでけっこうですよ。ロイ少佐。あなたと私は軍人なのですから」
「君も俺のことはロイと呼んで構わない。今回の作戦は非公式、なにもかもが例外なんだからな。格式に囚われる必要はないだろう」
「わかりました。ロイさん」
柔らかな物腰、美しい出立ちは、まさに貴族と呼ぶにふさわしかった。つくづく軍人とは思えない。
「アリを避けて歩いてそうだな」
「え? なにか言いましたか?」
思わず口に出たつぶやきに、セレーヌが訊き返してくる。どうやら聞こえていなかったようだ。
「いや、なんでもない。それより施設へ行こう。準備もそうだが、聞きたいこともある」
失言を聞かれなかったことに感謝しつつ、俺は彼女ともに“歩いて”軍の施設へと向かった。
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