第一部 八

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「懐かしい場所だ」 カニアのイーリス軍基地に向かった俺たちは、事情を知っている人の案内で武器庫を訪れていた。日も暮れてきたせいか、昼間と比べて人の出入りはかなり少ない。ここに来るまでに何人かの知り合いと会ったが、みな俺のことを退役軍人として扱っていた。まあ、事情を知っている者はほんの一握りである以上、当然なのだが。 「君のことは大体わかった。だが、まだ釈然としないことがある」  基地に着くまでのあいだ、セレーヌ本人のことを色々と聞いた。彼女が正真正銘、アデライード家の人間であること、同家が、情勢の安定化に伴って活躍の場を失いつつあること、作戦に自身が参加するという話は本当であること、性格は努力家であり、若干天然が入っていること、年は二十一歳であること、金髪は地毛ということなど。 「それはいったい、どのようなことでしょう?」 「君が今回の作戦に参加することとなった経緯だ」  俺は武器庫の一角にある椅子に腰かけ、セレーヌに問う。 「博士から聞いた話では、アデライード家は作戦に参加する君の身の安全を求めていないらしい。もちろん、実戦である以上、死ぬ可能性は必ずあるが、それでも、部下の身を案じるのは上司として当然のことだ。発言も問題だが、君のような貴族が、なぜこのような汚れ仕事を請け負うんだ?」  博士の説明を受けたときから疑問だったことを問いかける。血筋や名誉など、貴族の家柄は一筋縄ではいかない、厄介な問題を多々抱えていることは想像に難くない。プライベートな質問でもあると思うが、作戦を遂行するにあたって、なるべくお互いのことを知っておきたかった。 「どうしても、お話ししなければなりませんか?」  予想通り、セレーヌは複雑そうな顔をして尋ねてきた。 「秘密を打ち明けたり、本音をさらすことでも、意外と信頼関係というのは築けたりする。少人数で行動する場合、互いの信頼関係がもっとも重要だからな」
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