第一部 八

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「わかりました。では、お話しします」  セレーヌは少しの沈黙を置いて、言葉を紡ぎ始めた。 「私は、アデライード家の主である父、エルキュール・アデライードと、一般の女性のあいだに生まれた子供なんです。このことを知っているのは家内の者だけ」 「なるほど。不義の子ということか、単純にして深刻だな」  立派な歴史を作ってきたアデライード家に貴族と一般人の隠し子がいることが世間に知れたら、権威は失墜、同家は終わりだろう。信頼と言うのは、高く積み上げられるほど崩れやすくなる。エルキュール・アデライード元イーリス軍大将は有能な指揮官であり、革命戦争時には総司令官として活躍していた。英雄色を好むとは言うが、実際に訊くとショックだった。 「私は、言わばアデライード家の汚点。昔から兄弟姉妹から疎まれていましたが、昨今の情勢の影響で家の未来が不安定になってくると、それもより顕著になっていきました」  身の安全を保障しなかった点を踏まえると、徐々に全容が見えてくる。 「“いつ爆発するかもわからない爆弾”を処理するため、アデライード家は今回の作戦への参加を表明し、君を送ることに決めたんだな」 「……作戦の詳細を知らされたのが三日前。革命戦争の英雄である≪五つ子≫のひとりと行動をともにできると聞いて、嬉しかったんです。ですが、作戦が非公式であること、その内容を聞いていくにつれて気づきました。私は捨てられるのだと」  早くに両親を亡くした俺にとって、家族のことはよくわからない。だが、かつては俺も博士を慕っていたように、セレーヌにとって、父は大切な存在であるのは明白だ。大好きな人から突き放されるということが、どれほどの痛みを伴うか、想像に難くない。 「私にとっては、学校こそが家でした。立場上、士官学校では偽名を使っていましたが、一般人として過ごしていたこともあってか、周りの人たちは気さくに私に接してくれて、とても嬉しかった……。友達がいたから、私は学業を頑張れたんです」  学校生活は充実していたようで何よりだった。だが、セレーヌは俺と正反対の経緯でこの場にいることを思うと不憫でならない。俺はかつて戦場に必要とされていたが、彼女は自分の家で誰にも必要とされていなかった。都合がいいタイミングがきたので捨てられる。アデライード家にとっては――大将の個人的な思いは別として――彼女は道具以下の存在なのだろう。
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