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装甲車の後部ハッチが開くと、そこには言い伝えや書物でしか存在しないはずの地獄が顕現していた。
銃声、砲撃音、黒煙、硝煙。人間を死に至らしめる存在が、この場を支配している。死体がまるで道端の石ころにように、あちこちに倒れていた。
イーリス陸軍総司令官である、エルキュール・アデライード大将が考案した作戦は、シンプルかつ大胆不敵なものだった。イーリス陣営の戦闘地域南端に、戦車に必要パーツを運び、戦闘音を隠れ蓑にしつつ現地で密かに組み立て。結果、突如としてその場に戦車が出現し、ガリムに向かって攻勢を仕掛ける。
ここミディレルは、かつて美しい森林が生い茂っていたが、もはや荒地と呼ぶにふさわしい姿になり果てていた。最初の大規模衝突の後、膠着状態が続き、銃弾や砲弾の雨が散発的に降り注がれていくにつれて、いつの間にか黒々とした大地が広がっていた。もはや、かつてのミディレルの姿は思い出だけの存在だ。障害物が消えることは、敵戦車の活動範囲を広げることにつながり、地形と砲撃を活かしてガリムの進軍を食い止めていたイーリスにとっては致命的。いずれガリム軍がこの戦いを制することは、誰にとっても明白だった。
俺は四人を連れて外へ出た。後ろを振り返ると、俺たちの搭乗していた装甲車が反転して走り去っていく。なにか一声かけてくれてもいいのではないかと思ったが、塹壕の上に仮設された橋を渡ってきので、安全面を考慮するなら急ぐのも仕方がない。前を向くと、予定通り、味方が投げた煙幕手榴弾スモークグレネードから噴き出た煙が辺りに立ち込めていた。作戦自体が必要最低限しか知らされていないため、この煙になんの意味があるのか、彼らは知る由もなかっただろう。
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