第一部 九

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アデライード大将からは、≪五つ子≫の今回の戦いに関する具体的な指示を受けなかった。ただ、死なないように、死に物狂いで戦うだけ。そして、ガリム軍の士気が下がるよう、その力を見せつけること。戦車と≪五つ子≫の初陣となるこの戦いを、可能な限り敵へ強烈に印象付ける。   俺たちは岩や木々を盾にしつつ、態勢を立て直し始めるガリム軍を攻め立てる。敵を撃ち、銃剣で突き刺し、投げ飛ばす。戦車やトーチカから放たれた砲弾を回避し、ときに真っ二つに斬る。向かってくる戦車は正面から受け止め、全身に力を込めて横転させる。非現実的な光景を目にした敵兵は無力感に襲われ、死んでいく味方の断末魔を訊くたびに身震いする。一方で、強力な援軍を得たイーリスの兵士たちは、その活躍を見てさらに奮起する。ミディレルの大地は、徐々に黒から赤色に染められていった。  自分の動いた跡を敵の死体がなぞり、戦闘服が血に塗れてきたころ。ふと周囲の塹壕を見ると、イーリスの兵士たちがほかのガリム兵と戦いをくり広げていた。高まった士気のおかげか、死をも恐れぬような敢闘ぶりが目立つ。冷静さを欠いた者もいて、突出して死ぬ者も少なからずいた。ガリムが徐々に戦線を後退させていったのを見て、俺は味方に止まるよう指示した後、味方の本部に向かった。 「君たちはいったい何者なのだ?」  本部にいたのは、指揮官のアルバーン大佐だった。アデライード大将の話では、彼が前線の指揮を務めているらしい。俺はテンガロンハットを取り返事をする。 「味方です。今はそれだけしか言えません」  マスク越しに話しているため、声が若干こもっているが、大佐は気に掛ける様子もなかった。
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