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「……わかった。戦況を伝えに来たのか?」
「はい。ガリム軍は、戦車と我々による同時攻撃を受け、後退を始めています」
後退の言葉を受け、大佐は無線機の前に向かった。
「では、砲撃支援を再開する。味方と敵の位置を教えてくれ」
俺はミディレルの戦場が俯瞰視点で描かれた軍用地図を取り出し、座標を示した。
「こちら、アルバーン大佐。砲兵部隊に支援を要請する。座標は、8-3から8-7まで。横軸6より南には味方がいる。同士撃ちに注意しろ」
『了解。砲撃支援を開始します』
通信相手からの返事が聞こえると、数秒後に北から轟音が響き渡った。外を見ると、土煙が入道雲のように空へ上っている。
『こちら観測手。砲撃は命中、くり返す、砲撃は命中。味方損害無し』
観測手からの報告が入る。俺は自身の作戦に戻るべく、本部から出ようとした。
「協力、感謝する」
声を訊いて振り返ると、大佐は敬礼をしていた。俺もすかさず敬礼をして返す。
「私は作戦に戻ります」
そう言って、俺は帽子を被り直し再び前線へ向かった。
さきほどいた場所まで戻ってくると、ガリム軍が後退していたところには砲撃によるクレーターがいくつもできていた。戦車の残骸や、吹き飛んだ敵兵の肉片が散乱していて、見るに堪えない光景が広がっている。
「隊長!」
ルヴィアが息を切らしながら近寄ってきた。
「どうした?」
「ラーヴィが敵陣に突撃したわ。それもかなり深く」
ラーヴィは昔から手柄に固執する奴だった。≪五つ子≫として高い身体能力を手にしても、絶対に驕らず冷静にと、作戦前に口を酸っぱくして言ったというのに。
「俺が連れ戻してくる。そのあいだの指揮はルヴィアが取れ。ヴィクスとデイヴとともに戦い続けろ。残敵を掃討したら、本部のアルバーン中将に、アデライード大将直々の進言だといって進軍の中止を要請してくれ」
彼女はうなづく。俺は彼女に国旗を渡すと、ラーヴィの無事を祈りつつ、敵が後退していく方角へ向けて走り出した。
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