第一部 九

5/10
前へ
/73ページ
次へ
「……わかった。戦況を伝えに来たのか?」 「はい。ガリム軍は、戦車と我々による同時攻撃を受け、後退を始めています」  後退の言葉を受け、大佐は無線機の前に向かった。 「では、砲撃支援を再開する。味方と敵の位置を教えてくれ」  俺はミディレルの戦場が俯瞰視点で描かれた軍用地図を取り出し、座標を示した。 「こちら、アルバーン大佐。砲兵部隊に支援を要請する。座標は、8-3から8-7まで。横軸6より南には味方がいる。同士撃ちに注意しろ」 『了解。砲撃支援を開始します』  通信相手からの返事が聞こえると、数秒後に北から轟音が響き渡った。外を見ると、土煙が入道雲のように空へ上っている。 『こちら観測手。砲撃は命中、くり返す、砲撃は命中。味方損害無し』  観測手からの報告が入る。俺は自身の作戦に戻るべく、本部から出ようとした。 「協力、感謝する」  声を訊いて振り返ると、大佐は敬礼をしていた。俺もすかさず敬礼をして返す。 「私は作戦に戻ります」  そう言って、俺は帽子を被り直し再び前線へ向かった。  さきほどいた場所まで戻ってくると、ガリム軍が後退していたところには砲撃によるクレーターがいくつもできていた。戦車の残骸や、吹き飛んだ敵兵の肉片が散乱していて、見るに堪えない光景が広がっている。 「隊長!」  ルヴィアが息を切らしながら近寄ってきた。 「どうした?」 「ラーヴィが敵陣に突撃したわ。それもかなり深く」  ラーヴィは昔から手柄に固執する奴だった。≪五つ子≫として高い身体能力を手にしても、絶対に驕らず冷静にと、作戦前に口を酸っぱくして言ったというのに。 「俺が連れ戻してくる。そのあいだの指揮はルヴィアが取れ。ヴィクスとデイヴとともに戦い続けろ。残敵を掃討したら、本部のアルバーン中将に、アデライード大将直々の進言だといって進軍の中止を要請してくれ」  彼女はうなづく。俺は彼女に国旗を渡すと、ラーヴィの無事を祈りつつ、敵が後退していく方角へ向けて走り出した。  
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加