第一部 九

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ミディレルから離れるにつれて――ガリム軍が進軍した跡を除けば――徐々に緑が増えてきた。背の高い木や、苔の生えた岩が辺りを埋め尽くしつつある。それだけこちらが見つかる可能性も低くなるものだ、と俺は思った。V字状の窪地に入って数分ほど走った後、数十メートルさきに、後退を続けるガリム兵たちが見えたため、発見されないよう身をかがめながら、俺はバックパックに帽子を無理やり詰め込んだ。敵兵たちは戦車一輌を中心に陣形を組み、しきりに周囲を警戒しながら北上を続けている。見る限り七名は確認できた。歩きながらなにか話しているようだが、顔の表情が明るくならないあたり、少なくとも冗談ではないだろう。  彼らを尾行して敵陣まで案内してもらおうと考えた矢先、先頭を歩く兵士が歩みを止めた。不審に思い、彼を注視していると、さらに前から兵士が走って来る。肩を大きく動かして息をしながら、兵士は必死の形相でなにかを伝えていた。その言葉を訊いた先頭の男の顔が急変し、後ろにいる戦車と随伴歩兵たちに指示を出すと、行軍ペースが一気に上がる。  ラーヴィが暴れているのだ。俺は確信し、彼らを追い続けた。  一キロほど歩いたあたりで、尾行していた部隊は基地と思しき場所へ着いた。入口の両端にふたりの兵士が立っており、奥には車輌を停めるのに十分なスペースの広場がある。その後ろには寄宿舎のような建物が建っていた。周囲の状況を注意深く観察していると、東から銃撃と砲撃音が突然耳に入った。さきほど帰還した部隊が音のした方角へ走っていくので、俺は木でできた壁を登って内部へ侵入し、彼らの跡を追う。  
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