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それにしても、ずいぶん出世したもんだ。俺は片手で読んでいた本のページをめくる。
「ロイ」
シオンが、俺を心配そうな声で呼んだ。黒く長い髪が、彼女の動きに合わせて揺れる。
「どうした?」
「手、震えてるよ?」
そう言われて自身の左手を見ると、麻薬が切れた中毒患者のように小刻みに震えていた。
「朝は血糖値が下がったりするだろう? きっとそのせいだ。身体がエネルギーを求めているに違いない。さっそく、君が作ってくれた料理をさっそく食べて腹ごしらえをしよう」
「調子いいんだから」
少々呆れた様子で彼女が答える。
「レアールがまだ起きてこないの。悪いんだけど、起こしてきてくれない?」
「わかった」
俺はテーブルを離れて二階へと上がり、レアールの部屋を目指す。彼の部屋のドアの前に着くやいなや、すかさずノックをする。それも勢いよく。
「まだ寝てんのか! 寝坊助が!」
ドアを破らんばかりの勢いでノックをしたおかげか、部屋の中で人が動く音が聞こえる。
「声だけでいいだろ! んなでかい音出されたら心臓に悪い!」
「まったく、十六にもなって親に起こされる間抜けがいるか? 時間になっても来ないお前が悪い」
「あと五分で行く!」
「シオンが朝飯つくって待ってんだ。急げよ!」
「わかってる!」
レアールの返事を聞き、再び1階の居間へ戻る。
「昨日は部活で遅くなってさ。寝る時間も遅かったんだ」
あくびをしながらそう話すレアールが席に着く。
「陸上部の短距離だったよな? 調子はどうだ?」
「まあまあかな」
「素っ気ない返事だな」
「でも、この前ようやく百メートルを十二秒台で走れたんだ」
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