第一部 九

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「やれるもんなら殺ってみろ!」  敵の骸が多数倒れている円形の小さな窪地の中で、ラーヴィは追い詰められていた。得物の重機関銃を生身で振り回しているせいか、周囲にいる十三名の兵士は自分たちが有利に立っているのにも関らず、恐怖に感化されているようで、銃を構えるだけで攻撃をするような雰囲気はなかった。 「――――――――! ――――――――――――――」  敵兵のひとりがなにか叫んでいるのはわかるが、相変わらず内容は訊き取れない。すると、寄宿舎のほうからひとりの兵士が走ってきて、ラーヴィがいる窪地の淵で止まった。兵士という割には細身の彼は、さきほどしゃべっていた男に耳打ちされ、数秒後に口を開いた。 「大人しく投降しろ! 抵抗しなければ危害は加えない」  どうやらあの男はイーリスの言葉を理解しているようだ。投降勧告を受けたラーヴィは、従う素振りなど露ほども見せず、むしろ呆れた表情を向けて彼を侮辱していた。 「俺の帰る家はガリムにはねえよ。間抜け!」  通訳者がラーヴィの言葉を翻訳する。となりにいた男は彼から耳打ちされると途端に激怒し、銃を向けた。  「上等だ!」  敵が撃つよりも早くラーヴィの銃口から弾が発射された。銃を向けていた敵の頭が花火のように破裂し、隣にいた通訳者の顔を真っ赤に染める。俺は得物を取り出して全速力でラーヴィの元へ向かった。俺は小回りの利くリボルバーを引き抜き、左手でしっかりとグリップを握り、右の手のひらで撃鉄を起こして引き金を引く動作を六回くり返す。一秒足らずで放たれた六発のマグナム弾が、六人の敵を穿つ。残りの敵がこちらに気づき反撃してきたところで、俺は付近の物陰に隠れた。  シリンダーの弾を交換し、攻撃のタイミングを計っていると、遠くからの銃声とともに、左腕に痛みが走る。視線を向けると、二の腕を銃弾が貫いていた。痛みはそれほどないが、血がどくどくと溢れてくる。目の前の遮蔽物にはきれいな弾痕が残っており、隠れながら覗いた瞬間、さきでなにかが光った。狙撃銃のスコープだ。隠れた俺を見て、遮蔽物越しに撃ってきたのだ。下手に動いて姿を見せれば、銃弾が当たったと悟られてしまう。
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