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「レアールくらいの歳なら速いほうなんじゃないの?」
「中の上くらいだよ。速い奴なら十一秒台とかもいるし」
「部活もいいが、もっとしっかり遊べよ。働くようになったら、自分の時間はあまり取りにくくなるからな」
「しつこい。それ昨日も聞いたよ」
「それぐらい重要なんだって」
「ふたりとも、早く食べちゃってね」
三人で取る朝食。ここから俺の一日が始まる。もうひとつの日常。
朝食を済ませて仕事へと向かう直前、俺はシオンに尋ねる。
「そういえば、レアールの成績はどうなんだ?」
あいつは荒っぽい性格だから、いささか心配だ。
「真ん中くらいね。でも、実戦形式の成績がおおむね良好って、先生が褒めていたわ」
「感覚で覚えるタイプだったか」
「どこかの誰かさんに似てね」
「……いつもレアールの面倒見てくれてありがとう。本当に助かってる」
今の仕事が軌道に乗ってずいぶん経つが、代償として自分の時間が失われがちだった。レアールを孤児院から引き取ったばかりのころはたっぷりと可愛がってやったものだが。
「時間大丈夫?」
シオンに言われ腕時計を確認する。時間を見てみると、もう悠長に話をしている余裕はなかった。
「そろそろ行くよ」
「あっ、ちょっと待って」
そう言うと、シオンは俺のスーツをいじる。どうやら少し崩れていたようだ。
「ありがとう。これで胸を張って行けるな」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
バイクに跨ってエンジンをふかす。たくましい排気音とともに、猛烈な勢いで家が小さくなっていった。
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