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月のない夜。
星だけが輝いている。
改札を出た亮介の足が自ずと急く。早く会いたい。
くたびれたスーツの内ポケットに閉まった指輪ケースが胸を擦る。
突然、携帯が震えた。
誰だよ、こんな夜中に。
携帯を取り出すと綾乃からのSMSだった。
「は?」
亮介にはまるっきり意味がわからない。
『ごめんなさい、さようなら』
昨日もあんなに激しく求めあった。
今朝も仕事が終わり次第、行くと約束した。
電話をかける………が、出ない。
知らず足早になり、繰り返し電話を繋いでいる内、綾乃の家の前にいた。
震える指でチャイムを鳴らす。
やはり出ない。
家の周りを探る。人の気配がしない。
どこだ。
リビングに面したデッキにあがる。薄く開いたカーテンから室内を覗く。
つけっぱなしのスポットに照らされた関節人形が、作業用の椅子から転げ落ちそうになっている。
首が手がダラリと垂れ、ぎょろりと剥いた白目が不気味だ。
再び携帯が鳴る。
「何処にいるんだ」
「病院」
母親の所か。
「今行く」
それだけを伝え、亮介は走る。
今何時だ。
時計を見れば後5分で12時。
「くそったれ」
この時間では大通りに出たところでタクシーは拾えないだろう。駅まで出るか。
角を曲がったところで、ちらっと電信柱が目に入る。
切れかかった街灯に反射するボロボロのポスター。白く濁ったカバーがわりのビニールを通して読み取れるのは『行方を探』と、男と呼ぶにはまだ幼さが残る顔。
この町はやけにこの手のポスターが多い。
駅が見えてきたところで一台空車のタクシーが走ってくる。
亮介は左手を大きく振り上げた。
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