7.

4/5
前へ
/25ページ
次へ
「綾乃!」 ゆっくりと綾乃は振り返る。 私はフェンスの外。 貴方との距離は10メートル程かしら。 この時のために病院長をたらしこみ、屋上ドアの鍵を手に入れておいた。 ペルセウスを待っていた。ずっとずっと。 闇から救い出してくれる私の夫。 何度も人違いをして、その度次のペルセウス候補に始末を付けさせて来たけれど、やっと会えた。 「こっちに来い、綾乃」 何故そんな怖い顔をするの? 私は貴方の笑った顔が好き。イク時のため息が好き。 睨まないで、私の愛しい人。 「お前、殺したな」 「何だそんなこと」 「何でだ。あんなに恋しがってたのに」 「だって、置いていくのはかわいそうだから。 一人ぼっちで、誰もお見舞いすら来てくれないのよ。 それに、死にぞこなって一番悔しかったのは彼女自身だから」 せめて私の手で引導を渡してあげる。 恋しい人の元へ送ってあげる。 「泣きながら言うなよ、そんなに苦しんでるのに」 貴方こそ、そんな顔しないで。 「こっちにおいで。危ない」 「さようなら、愛してた」 「逝くな」 一歩また一歩。 貴方は私に近づいて来る。もう少し。 「危ないから降りるんだ」 また一歩。 手を伸ばしてくる。 「指輪を買った。お前のために。いや俺達の為に。一緒に開けよう」 「見せて」 「こっちに来たら見せてやる」 「足がすくんで動けない」 今度は私が手を伸ばす番。 手の平を上にむけて。誘うように。 ほら。いらっしゃい。 一歩。また一歩。 フェンスを乗り越えて来る。 そして私の手の上に貴方は手を乗せる。 私は貴方の指を握り混み、そのまま後ろに腕を振って指を離す。 数秒後 鈍い音が下から聞こえた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加