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再び会ったのはその夜。
駅近くのスーパーに食料を買いに出掛けた亮介は両手に買い物袋を下げた彼女を見つけた。
おいおい、その荷物で家まで帰るのかよ。
見兼ねた亮介が声をかける。
「今日は社用車あるから送りますよ」
随分と大胆だと自分でも思ったが、営業マンの勘か、断られる気がしなかった。
案の定、彼女の返事は
「お願いできますか」だった。
車に荷物を載せ、彼女の為に助手席側のドアを開けた後、亮介は自分の名刺を差し出した。
「片山さんとおっしゃるんですか」
彼女は多田綾乃と名乗った。
「どうぞ」
彼女が乗り込んだ後、亮介はドアを閉めながら、浮き立つ気持ちを押さえ込んだ。
車の中で聞き出せたのは彼女は人形作家だという事と一人暮らしだという事だった。
知らない町で初めて出来た知り合いだ。
別の感情が腹の下で渦巻いている事については敢えて無視を決め込んだ。
次の日の夕方、電車の中で携帯が鳴った。
「夕飯、まだでしたらご一緒しませんか?」
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