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ドアを開けた彼女は前日と違いTシャツにジーンズ、黒のサロンエプロンというカジュアルなスタイルだった。 駅からそのまま来たスーツ姿の亮介を出迎えた綾乃は 「お帰りなさい」 と言って彼のジャケットを受けとった。 まるで新婚家庭じゃないかと錯覚を起こしそうになる亮介を「こちらへどうぞ」、と手を引いて中へ招き入れた。 彼女の家は外観同様余り手を入れている感じはしなかった。 実際に過ごしているのが一階部分だけだという。 20畳越えのリビングダイニングには彼女のベッドも置かれていた。 八人掛けのクラシカルなダイニングテーブルは、作業場にもなる為スケッチブックや筆記具がちらばり、ソファには造りかけの人形たちが場所の取り合いをしていた。 続く10畳程の和室はミシンやレース、色とりどりのファブリックが散乱していた。 縫い掛けのドレスは緑色の髪と目のドールに着せるのか、ラフ画が壁にピンでとめてあった。 仕事柄色々な家に上がっているが、中々お目にかかれない光景に、亮介は好奇心を抑え切れずキョロキョロと見回していた。 「もう一つ部屋はあるけれど似たような感じ」 フフッと笑いながら、亮介をテーブルにつかせた。 「2階は」 「使ってないわ。服は浴室のところにウォークインクローゼットがあるからそこに。 2階には上がらないでね」 その言い方だと、これからも来ていいと言ってるようだ、と亮介は思った。 「近所の人達、高齢の方が多くて、中々交流というのが難しいんです。 歳の近い方が話し相手になってくれるだけで嬉しい」 その後は流れのまま、気がつけば一つのベッドで朝を迎えていた。
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