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「どうよ、新天地は。大分慣れたか?」
店長会議の後、前の勤務地の津田店長に声を掛けられた亮介は曖昧に笑った。
着任してまだニヶ月。思うほどの成績はあげていない。どう答えようかと思案している時
「中々難しいよ。あそこは」
生き字引とあだ名される鹿島店長が助け舟を出してくれた、と、ホッとしたのもつかの間のこと。
「あそこは人がいないからな。いや。正確には人が消える町か」
「なんだ、それ」
亮介も初耳だ。人がいない?綾乃も言っていたが確かに若い人間は少ない。
その分高級感ある車を求める客も多い。
ただ、外車というのに抵抗を持つ年代なのでそこがやりづらいといえばやりづらいが。
「初めて聞きましたよ。何ですか、その消えるって」
「俺は帰るわ、がんばれよ」
津田を見送り、鹿島と二人が残った。
「はは、売上そのものにゃ関係ないか。まあここ10年ばかりの話なんだがな。
失踪や自殺、行方不明が多いんだよ、あの町。
あちこちに情報提供のポスター貼ってないか?」
「そういえば結構目にするような」
綾乃や店の連中が何も言わないのは、当たり前過ぎるからか、余り言いたくない話なのか。
眉も声も潜めながら鹿島は続けた。
「年にニ件くらいは起きるかな。
大体20代から40代くらいの男。
理由もなく消えたり、首吊り死体になってたりするんだ」
まるで都市伝説だ、と亮介は思う。
「嘘だと思うなら地元新聞見てみろよ」
鹿島はそう言うと片頬をつり上げた。
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