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「この町は、人が消えるんだってな」 「何、それ」 ソファで綾乃を肩抱きしたままビールを口に運ぶ。 「コロナ好きね。また買っとかなきゃ」 亮介が綾乃を見る。 スポットの明かりを受けて煌めく瞳は、テーブルに転がっているシリコン製の目玉と同じだなと亮介は思った。 「昔話を一つ。私の叔父は8年前、ここから遠くない自宅のマンションで首を吊った。 離婚した直後だったから発作的なものじゃないかと言われた」 綾乃の左手が亮介の首をなぞる。 「その半年後、近所に住む大学生が失踪した。 親御さんは必死で探したけど、行方知れず。 その1年後、今度はその父親が駅向こうの川で溺死」 淡々と綾乃の口が言葉を綴る。 「私が知ってるのはこのくらい。暫くネットを騒がしてたからね」 亮介の持つ瓶をそっと奪い口に含む。 こぼれたビールが喉を伝って胸に落ちていく。 何となく綾乃の怒りを感じた亮介は話題を変えたくて 「明日の予定は?」 と聞いてみた。 綾乃にしても思いがけない問いだったのか、一瞬言葉に詰まる。 「……病院へ」 「どこか悪いのか」 「違う私じゃない。母が入院してるの、もう12年」 亮介が固まる番だった。 「遷延性意識障害。簡単に言うと植物状態」 午後から行くと聞いた亮介は、丁度午後から代休だからと送迎を買って出た。 綾乃は亮介の首に腕を巻付け耳元で「ありがとう」と囁いた。
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