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だけど、自分が吸血鬼であることは周囲には内緒にしていたので、それを友人に告げることはしなかった。真実を言って、友人に拒絶されるのも嫌だったし、なにより友人に牙をたてるのに抵抗感もあった。僕は、友人の発する香りに惑わされながらも、それを抑え、誤魔化しながら友人と接していた。
けど……ある日、事件が起きた。
その日、僕は酷い風邪をひき、四日も学校を休んでいた。最悪なことに血を摂取する日の前日に寝込んでしまい、血どころか人間用の食事もとれずで、空腹に加え体力も激しく落ちていた。
そんな最悪な状態の時に、友人が一人で見舞いに来てくれたのだ。
お土産のゼリーを片手にやって来た友人は、ベッドに横たわる僕の姿に酷く驚いていた。そして、長居はできないなと遠慮したのか、すぐに部屋を出ていこうとした。だけど、僕は友人を引き止めてしまった。
この時、友人を帰していれば間違いは起きなかった。僕は自分の軽率な行いを、今も悔やんでいる。
身体が弱っていた僕は、とても寂しがりやになっていた。大好きな友人が帰って、一人になってしまうのが怖かった。そして、友人が近くにいれば、体調も良くなりそうな気がしていたんだ。
一緒にゼリーを食べながら、友人の語る学校であった今日の出来事を聞く。その話の端々に、友人は何度も「大丈夫?」と、心配そうに尋ねてきていた。その度に「大丈夫だよ」と返し、ゼリーやジュースを口に入れていたけど、僕は別の意味で大丈夫ではなくなっていた。
部屋に満ちてくる甘い香り。それはゼリーやジュースとは違う、僕を酔わせる香りだった。
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