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 ◇ ◇ ◇  一日が終わり、帰宅しようと校門まで来ていた僕は、踵を返し教室を目指していた。うっかり忘れた教科書を取りに戻っているのだ。 「はー。なんで、よりにもよって課題が出された教科ばっかり忘れるかな……」  自分の迂闊さを恨めしくぼやきながら、僕は西館の三階という地味に距離のある教室に向け足を進める。  三年前から人間の血を断っているせいで、僕は極端に体力がない。生活において無駄な行動は極力避け、体育の授業も何かと理由をつけて見学をしている。だから、普段なら忘れ物に気づいても気にせずに帰るのだけど、今日はそれができなかった。運動がダメな分、学力は人一倍頑張らねばと変な義務意識を持っているからだ。……けど、はっきり言って、この往復はしんどい。教室に辿り着く頃には一日の疲労も積み重なり、もうぐったりだ。足だけではなく、全身がずしりと重くなったような感覚に囚われてしまう。  帰宅時間が遅くなってしまうが、教室で休憩してから帰ろうなんて考えながら、ようやく辿り着いたドアに手をかけた。  ――ドアを開け、教室に入った瞬間、僕は疲労とは違う高鳴りを胸に感じた。  窓際の席に座り、黙々と本を読んでいるクラスメイト。教室に差し込む日の光に照らされ、染められた髪が輝き、血色の良い肌がさらに色鮮やかに映える。その姿に、ゴクリと喉が鳴ってしまう。 「あ、あれ? 佐川?」  動揺し、上擦った僕の声に、佐川が本から目を離してこちらに顔を向けてきた。 「んー? 瀬戸じゃん。帰ったんじゃないの?」 「教科書忘れたんだよ。佐川は帰んないの?」 「帰ろうと思ったんだけどな。ちょっと読み始めたら、先が気になってな」  佐川の後ろにある自分の席に向かい、言葉を交わしながら机の中にある教科書を鞄に詰めていく。
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