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「あー、もう、いてえなぁ。なんで、紙で切った傷ってこんなに痛いんだろうな」  普段と変わらない明るい様子で、僕の方に傷口を見せつけ笑いかけてくる。  ……ヤバイ。そんな些細な行動に身体が震える。喉の奥、全身がそれを求め、唸る。  僕の身体は無意識に佐川の指を掴み、その指にある傷口に乱暴に吸い付いていた。 「えっ!? おいっ、瀬戸っ?」  突然の奇行に困惑した佐川が声を発する。だけど、止まらない。僕は傷口から潤いを求めようと、必死に吸い付く。しかし、傷は浅いのか、求めるものはなかなか喉に届かない。 「――――っ!」  諦めかけた時、舌先に微かに触れた甘い鉄の味。ほんの一滴なのに、全身が歓喜に震える。 「……瀬戸?」  指から離れた僕の視界に、眼前の不穏に身を竦める佐川の姿が映る。  三年ぶりに得た味。その甘美に、必死に抑えてきた本能が解き放たれてしまう。僕は佐川の身体を押さえ込み、彼の首筋に牙をたてた。  プツリと牙が皮膚を貫き、滲み出る温かな赤い液体。口内に広がっていく甘い味に頭が痺れ、潤いを得た身体が貪るようにさらなる潤いを求める。  無我夢中で喉の奥へと赤い温もりを流し込み、全身に本来の力が戻ってくるのを感じる。佐川を押さえ込んでいる手にも力が入り、ギリッと肩に爪を食い込ませていく。 「せ、瀬戸……。なに、やって……」  ふいに届いた弱々しい佐川の声と、首にかかる苦しそうな吐息。そして、指先に感じる身体の震え。佐川の異変を感じとった身体が、歓喜を忘れて自身への恐怖に陥る。 「あ、……佐川」  自分を取り戻した僕は、そろりと佐川から離れていく。まだ甘い香りが僕を誘うけど、苦しそうな息づかいがそれを拒絶する。
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