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「佐川、……ごめん」  血の味を残した口が告げる謝罪。唐突に、しかも酷く傷つけた後にしては弱く、心に伝わらなさそうな短い謝罪。僕は色々なことが恐ろしくて、その一言しか告げることができなかった。  だけど、打ちひしがれ顔を伏せる僕に、佐川は意外な反応を返してきた。 「……なあ、もしかして瀬戸って、吸血鬼なの?」  弱った感じを残しながらも、普段と変わらない明るい声。思いがけない反応に、思わず顔をあげて佐川の方を見てしまう。佐川は首にできた噛み傷をさすり、なぜか興味深そうに指についた血を眺めていた。 「ねえ、吸血鬼なの?」  好奇心いっぱいの子どもみたいに、再度尋ねてくる。若干勢いに圧されながら、僕は「うん」と、頷いた。すると、どうだろう。普通なら悲鳴でもあげて逃げるところを、佐川は逆に目を輝かせ身を乗り出してきたのだ。 「マジかよっ! 吸血鬼って、マジでいたんだっ!」  嬉々とし、興奮する佐川。僕はその姿に唖然としてしまう。吸血鬼が人間の血を吸う際、獲物に逃げられないように唾液に混じり快楽物質が分泌される。そのお陰で、獲物は牙をたてられた痛みを快感に感じ、逃げることをしなくなる。普通なら、そのはずなのだが、今の佐川は快楽に溺れると言うよりも、興奮剤でも与えられたみたいに興奮している。 「うわー。吸血鬼かぁ。俺、初めて見たよ。って、初めてじゃないか、毎日見てたんだな~」  変な興奮の仕方に僕の方が恐縮してしまい、恐る恐る尋ねてしまう。 「佐川は、僕が怖くないの?」 「は? 怖い? 怖いわけないじゃん。瀬戸のことはよく知ってるし、なんか妙に納得した部分もあるからな~」 「納得した部分って?」
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