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「瀬戸ってさ、時々色んな人の首筋を物欲しそうにジーッと見てることがあるよな。で、俺のことも結構見てたよな」 「そ、それは……」  見ていたことが気づかれていたことに、カッと顔が熱くなる。恥ずかしさと申し訳なさから、「ごめん」という言葉が再度口を衝いて出てしまう。 「謝らなくても良いよ。別に見られるのは嫌じゃなかったし。……でも、それって腹が減ってたからなんだな」 「なんで、そう思うの?」  他人の首筋を見ていたという情報だけで、空腹に辿り着くなんて思えない。僕は疑問をそのまま尋ね返す。 「だって、瀬戸って、スゲー少食で顔色も悪い時が多いじゃん。それなのに、今はスゲー顔色が良くなってんだよ。普通に分かるでしょ」  佐川は無邪気な笑顔で、あっけらかんと言う。 「でもさ、腹が減ってたってことは、もしかしてずっと血を吸ってなかったりしたの?」  僕は佐川の順応の良さと、察しの良さに驚かされながら頷く。 「なんで? 腹減って動けないってしんどいだろ」 「…………」  血を吸わない理由。それは忘れたいけど、忘れられない記憶。未だ口の中に残る甘い香りに、強い罪悪感が呼び戻される。 「……まっ、理由なんて色々あるよな。でもさ、やっぱり空腹が続くのって辛いだろ。だからさ、これからは俺が瀬戸の食事になってやろうか?」 「――えっ!? 佐川、なにを言って……」  とんでもない提案に言葉を失う僕に、佐川はニンマリと顔を近づけ、牙の痕が残る首筋を見せつけてくる。 「もう噛みつかれてんだ。一回も二回も変わんねーよ」 「でも、そんなこと頼めないよ……」  鼻腔に届く甘い香りに心を揺るがされてしまうけど、僕は佐川の提案を拒絶した。それなのに、佐川はそれをはね除ける。
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