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 なぜなら、その精神的な問題というものに、思い当たることがあったからだ。それは、進歩のない吸血のことではなく、僕が血を飲むことを拒絶するようになった原因―― 「瀬戸。一人で悩みを抱えるのって、キツいだろ。ここは一つ、パーッと打ち明けてみれば良いんじゃね。意外と気分が晴れて、スッキリするかもしれないよ」  何だろうな、佐川は不思議な男だ。彼の言葉は力強く胸に響いてくる。吸血鬼である僕をすんなり受け入れてくれただけでなく、空腹の僕に血を与えてもくれる。それだけでも十分なのに、僕はそんな優しい佐川にもっと甘えたくなってしまう。佐川になら、この胸の奥にしまい込んだあの記憶も打ち明けても良いのでは、と思えてしまうほどに……。 「……佐川。僕ね、三年前、友だちを殺しかけたんだ」  そして、僕は忘れられない記憶を佐川に語った。  ◇ ◇ ◇  三年前、僕には仲の良い友人がいた。明るく人懐っこい性格で、中学に上がってから仲良くなったとは思えないほど、いつも一緒に遊んでいた。その友人も、佐川同様に甘い香りで僕を惑わせる存在だった。  吸血鬼と人間の血には相性というものがある。相性が良いほどに、人間の血は吸血鬼には甘美なものに感じられるのだ。普通なら美味しそう程度で留まる欲求が、最高の相性を持つ人間と出逢うと、その欲求が強まり、その人間の発する香りだけで酔ったようだったり、発情したような気分になってしまうこともある。  おまけに、相性が良い血は吸血時に得られる栄養価も通常よりも高く、燃費も良いと言われている。吸血鬼の中には、相性が良い人間一人を囲い、その一人からのみ血を摂取する者もいる。  そうは言っても、最高の相性を持つ相手なんて、そう簡単に見つかるわけではない。でも、僕は中学生という子どもの時に出逢ってしまったんだ。……そう、その仲の良かった友人が、僕の最良の相手だった。
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