彼女の話

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 外に出るとまだ6時台ってこともあり、まだ人はまばらだ。春が始まったばかりなので、まだ朝は肌寒い。オレはとりあえず、彼女と一緒に過ごした場所をめぐることにした。  この町で一番大きな公園に行くと、桜の木がもうすぐ蕾を付けようとしていた。 『ねえ、桜が咲いたらお花見しようよ』  付き合いだして間もないころ、公園を散策していた時に彼女がそう言った。オレは確か、 「それじゃあ、一番きれいな場所で花見をしよう」と言ったのを覚えている。オレは公園内を走り、一番小さな桜の木の前で止まった。 『この桜、かわいいね』 「ああ、他のは大きすぎて人がいっぱいになるからな、少し離れた場所にあるこの小さいやつが一番いいと思うんだ。オレの中じゃ、ここが一番きれいだ」  その桜の木もやはりまだ蕾だ。 ポーン  ポケットに入れていたスマホからメッセージが届いたことを知らせる音が鳴った。スマホを見てみると、メッセージが一件入ってきていた。開けてみると、差出人は『彼女』だった。
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