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日吉響子はいじめられている。
それは、誰の目からも明らかな事実だった。
響子は地味でおとなしく、悪くいえば根暗で辛気臭かった。それは響子の個性ではあったが、学校というせまい空間のなかでは、異物とみなされる原因にもなった。
「うざい」
残酷な一言を合図に、響子の学校生活は地獄へと変わった。
その日も、響子は放課後ひとりで教室を掃除していた。
いつからか、面倒な日直や掃除当番は響子に押しつけて当然という空気ができあがっていて、クラスの誰もそれに異論を唱えなかった。
響子をいじめているグループが、派手で口のうまい女生徒と、不良じみた乱暴な男子生徒というわかりやすいメンバーで構成されていることもあり、それに逆らいたくないという心理も働いていた。
浅川まつりも、傍観者のひとりだった。
クラス内で行われる行為は、決して目にしていて気分のいいものではなかったけれど、加害者とも被害者ともとくに接点はなく、自分の身に降りかかる災いがあるわけでもなく、ほかの大多数の生徒とおなじように、その光景を背景として見過ごしていた。
そう、その日までは。
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