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   置き忘れてしまった課題のノートを取りに教室へ戻ったまつりは、いつものようにひとりでポツンと床を掃いている響子の姿を見た瞬間、言い知れぬ罪悪感に襲われた。  事実としては認識していても、その光景を目の当たりにすると、自分でも意外なほどに胸が痛んだのだ。  逆らいもせずに彼らの命令に従っている響子に、理不尽な怒りさえ感じた。 「日吉さん」  背後から声をかけると、響子は大げさなくらい肩を震わせて振りむいた。 「あっ、……浅川、さん……」  注意して耳をかたむけないと、聞こえないようなかすかな声だ。  この、もしかしたら初めて会話するかもしれないクラスメイトに、名前を覚えられていることを不思議に思いながら、まつりは掃除用具を入れてあるロッカーから箒を取り出した。 「あの……」 「早く終わらせよう」  短く返すと、響子の反対側の隅から床を掃く。  響子はなぜか、泣きそうに顔をゆがませてまつりを見た。 「……ごめんなさい」  なんに対する謝罪なのか、謝るべきは自分をはじめとしたクラスメイトたちではないのか、ぐるぐると考えを巡らせながらも、先ほど抱いたいらだちを消すことができないまま、まつりは黙って手を動かしつづけた。
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