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   響子に手を差しのべたのは、気まぐれに近い、軽い衝動からだった。  一度だけなら、関係性も日常も、変化することはなかっただろう。しかしあいにく、まつりは差し出した手を無常に引っ込めるほど薄情な人間になりきれなかった。  あれ以来、まつりは毎日放課後の掃除につきあっていた。  毎日ともなれば、人の目に触れることは避けられない。  遠からず、まつりが響子の手助けをしていることは、クラス中に知れ渡った。 「浅川さんってぇ、日吉さんと仲よかったっけ~?」  唐突に問いかけてきたのは、藤原麻衣。響子に対するいじめの首謀者で、かつ、クラスの中心人物である。  たしか以前はまつりちゃん、と呼ばれていたことを思い出しながら、まつりは短く答えた。 「べつになかよくはないよ」 「へぇー、じゃあさぁ」  いやらしく語尾を伸ばすしゃべり方だ。  今まで気にしたこともなかったのに、自分に向けられる悪意を、ひとは敏感に感じ取る。 「なんで日吉の味方すんのぉ?」  麻衣の声音も口調も楽しそうに弾んでいるが、目は笑っていない。  頭では逆らわない方が得策だとわかっていながら、またも謎の怒りに苛まれて、まつりは麻衣をじっと見つめ返した。 「味方とかじゃないけど。そういうの子どもっぽいと思う」  やめれば? と、小さくつぶやいて立ち上がる。  さすがに、麻衣の表情を確かめる勇気はなかった。
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