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第一章『偽りの謝罪』
「ごめんなさい。」
放課後の職員室で頭を下げる僕に、先生は啖呵を切らす。
「何回言えば分かるんだ! お前はいっつも寝てばっかーー」
あぁ、また始まった。長い長ーい、いつも通りの説教だ。唾が僕の顔にかかって、こいつの臭い息をなるべく吸わないように息を止める。
「お前、本当に悪いと思ってんのか!」
「……はい、思っています。」
いいえ、思っていません。何時だって本音とは真逆な言葉を選んで、でもそれが正解だと知っているから、僕は今日も嘘をつく。悪いだなんて思わない。いや、思えない。
聞く価値のない授業を聞かないで、何が悪いと言うのだろう。
「今度授業中に寝たら親に訴えにいくからな! 分かったか!?」
それは面倒臭いな。ただでさえ疲れるこいつの説教に、もっと疲れる親の説教が加わるなんてストレスで死ぬ。
かといって、寝ない訳でもないが。
「はい、気を付けます。」
それでも僕は、嘘をつく。箱の外側だけを綺麗に彩って、内側は錆び付いて汚いままにしておく。
ーーやっと、説教が終わる。
歓喜が頭の中で踊り出すが、顔に出さずに再び僕は頭を下げる。
「本当に、すみませんでした。」
ーー偽りの謝罪を、淡々と述べながら。
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