アイ君

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 アイ君は何というか、とにかくいじめられてしまう素養、というのは不謹慎だろうか? そんなものを沢山持っていた。 「みなさんこんにちは、僕はアイ君です。アイ君って呼んで下さい」  とまあ、第一声からして僕から見ても、周囲から見ても、それってどうなんだ? と思わざるを得ない様なあいさつからアイ君は始まった。 「僕の名前はね、みんなに愛される子になりますように、みんなを愛せる子になりますようにって両親がつけてくれたんだぁ、ねえ、君の名前にはどんな由来があるの?」 「……賢治、両親がある小説家のファンでね、出身地が彼と同じらしい」 「そうなんだぁ! それって素敵だねぇ。 仏教(法華経)信仰と農民生活に根ざした創作を行い、創作作品中に登場する架空の理想郷に、岩手をモチーフとしてイーハトーブ、あるいはイーハトーヴォと名付けたことで知られる。よね!」  みたいな……なんていうか、とあるなんでもネットサイトをまるまる暗記して、そのまま話すようなことがままあり、そんな彼を僕らは「普通じゃねぇ」って思ったんだ。言動や仕草、表情など、どれもが少し癪に障るのだ。  普通であることは重要で、逆に言えば普通である事こそが、ここ学校という施設の中では何よりも尊重され、普通を脅かす者は迫害されるのだ。  迫害されるだけならまだよかった。それを自覚した人は大体、田島君や柴田君のように一日中机に突っ伏して過ごせばそれ以上の被害はない。  いわゆるいじめに発展していくのはこの次のフェーズからだった。  つまり、迫害を自覚しない者。こういう者に集団は厳しい。  お前は迫害されてるんだよ? 集団を脅かしているんだよ? 普通ではないんだよ?  だからこうなるんだよ。と言わんばかりにそれは始まった。
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