アイ君

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 それはいじめの加担者に、ある種の満足感とともにもっと味わいたいという飢餓感。あくなき支配欲をこれでもかと言うくらい刺激した。  それ以降徐々にアイ君はそれまでの元気さを失い、誰とも話さず、席にじっと座っている時間が増ええていった。  噂では陰でもっと直接的な、殴る蹴るなどの暴力も行われていたらしい。  らしい、なんて白々しくて、授業の合間、十五分休憩の度に数人のクラスメイトに呼び出され、次の授業ギリギリにおなかを抑えて教室に入ってくるアイ君を見れば、何が行われているのかはみんな察しがついていた。  そう思うと、周りのせいにして何も行動せずに、文芸部創設を諦めた自分を酷く恥ずかしく思えてきて、同時に気が付いてしまった。   この時僕は初めて自覚した。  いじめに直接かかわっていない傍観者も、いじめの加担者なのだと身をもって知ってしまった。  以前は暴論だと切り捨てた綺麗ごと。  そう思っていたはずの僕の心は、うなだれるアイ君を見る事で酷い罪悪感に包まれていった。  何より、いつかアイ君と交わしたあの会話が、頭にこびり付いて離れようとしない。  ――『僕の名前はね、みんなに愛される子になりますように、みんなを愛せる子になりますようにって両親がつけてくれたんだぁ、ねえ、君の名前にはどんな由来があるの?』――  彼もまた誰かに愛されて生まれてきたのに、愛されるために生きているのに。  彼は最後まで誰かを愛そうとしていただけなのかもしれないのに――  実は僕は、僕の名前が密かな自慢だったんだ。何も持っていない、何者でもない、傍観者の僕の、唯一ちょっと特別かもしれないと思えるところだった。  だから僕は担任の先生にこのことを相談することにした。
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