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それから幾月か経ち、今日もまた、学校帰りに喫茶店の前を通りながら、中を窺う。
(いつか、入ってみたいな)
別に、何歳から入店可なんて年齢指定はされていないようだから、すぐにでも中に入れる筈なのだ。
でも、お世辞にも大人っぽいとは云えない自分は、やはりこのお店の醸し出す渋い雰囲気には似つかわしくない気がしてならず、目の前の扉を開ける勇気がなかなか出なかった。
あと、喫茶店に対して妙に期待し過ぎてしまったせいか、店に入って、理想と現実の差にがっかりするかもしれないという恐れも、尻込みの原因かもしれない。
(いっそ、お店に入らずに、夢見たままでいいか……いやいやいや、入るよ。絶対に、いつか入るんだからね!)
そう意気込みながらお店の扉を素通りしたのは、これで何十回目か。
いい加減、不毛な意気込みを上げることへの空しさだとか、扉に手を掛ける意気地すらない自分への恨めしさに焦れてきた。
恐らくだが、私がこの古い喫茶店にかける焦がれるような思いを、人は"憧れ"と呼ぶのではないだろうか。
要は、子供が大人を羨んでいられる間に見る、"大人になったらこれをしたい""大きくなったらああしてやる"といった類の、沢山存在するささやかな夢の内のひとつというわけだ。
(お店の御店主さん、せめて、ブラックコーヒーが飲めるようになったら、入らせていただきます!)
胸中で宣言した時、傍らにあったお店の窓がコン、と鳴った。
反射的にそちらを窺うと、中にいる人がこちらに会釈をくれる。
私の、家庭教師の先生だ。
こちらも会釈を返すと、彼はおもむろに手招きをした。
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