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(あれ? そういえば――)
ふと、あることに思い至り、黙々と読書をする先生を横目でそっと窺う。
(先生って、音楽に興味がないのかと思ってた)
今まで先生は、流行歌や人気歌手の話題に乗ったためしがない。
当たり障りのない服装や堅い印象の言動から、彼が流行そのものに無頓着なのは察していたけれど、どうやら音楽自体に関心がないわけではなさそうだ。
「先生は洋楽がお好きですか?」
「わりと聴きます」
無関心なものは徹底的に避ける傾向にある先生にとって、それはつまり『好き』ということか。
確かに洋楽やジャズの方が、昨今の流行歌と比べると、幾分先生の雰囲気に合っている気がする。
「先生って――」
「お待たせいたしました。ご注文のウィンナコーヒーでございます」
感じたことを呟こうとしたところで、ウェイトレスがやってきた。
銀色のトレイからテーブルへと、流麗な仕草でカップを下ろすウェイトレスの姿に惚れ惚れとしていたのだが、目の前に置かれたカップを見下ろして、絶句する。
高級そうなコーヒーカップの中身は、黒い液体ではなく、真っ白なホイップクリームの山だった。
――苦いコーヒーが不得手でしたら、こちらなどいかがですか?
そう言って、メニューの中から先生が薦めてくれたものは、本当に、この、クリームで満たされたコーヒーカップなのだろうか?
コーヒーを注文したはずなのに、その黒がどこにも見当たらない。
まるで、なにかの冗談のようだ。
(確かに苦くはなさそう。でもこれ、コーヒーっていうよりケーキ?)
容器以外、コーヒーらしさが微塵もない圧巻の眺めに、動揺せざるを得ない。
コーヒーに疎いクセに、薦められたからという理由で、品物の内容を確認もせずに注文した自分の迂闊さが悔やまれた。
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