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時は今から何十年前。まだ犬譲渡や保護が一般的ではなく、人間に捨てられた野良犬達が、社会の片隅で生きていた時代。
うううううううう・・・
うううううううう・・・
低い唸り声をあげ、激しく顰めっ面をして鋭い牙を剥出し、涎や鼻水をダラダラ垂らし、目を血走らせた1匹の薄汚れた雑種犬が、ライバルの野良犬達に喧嘩を売っていた。
名前を『エス』と呼ばれた。
『エス』は、初めに飼っていた飼主が付けた名前だった。
かつては、とても温和な犬だった。しかし今ではその飼主にゴミ溜めに捨てられ、流浪の末、このような狂暴な野良犬に変貌したのだ。
エスには、捨てた飼主への激しい怒りしか頭に無かった。
そして、エスを挑発してくる野良犬どももそうだ。
ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!
ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!
毎度毎度どっかしらでエスは縄張り争いに巻き込まれ、歯向かってくる相手の野良犬どもと喧嘩を挑まれた。
噛みつき、蹴飛ばし、また噛みつき・・・
きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!
「ふう・・・ふう・・・やっと退散した・・・」
ごつん!!
今度は石が飛んできた。
ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!
「薄汚い野良犬!!あっち行け!!しっ!!しっ!!」
人間の悪ガキ達が、エスに向かって石を投げつけてきたのだ。
「痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!」
野良犬のエスは逃げた。
ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!
「あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!」
逃げても逃げても逃げても逃げても、執拗に悪ガキ達は、石をエスにぶつけて追いかけてきた。
ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!
「きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!
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