2#エスという名の野良犬

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 時は今から何十年前。まだ犬譲渡や保護が一般的ではなく、人間に捨てられた野良犬達が、社会の片隅で生きていた時代。    うううううううう・・・  うううううううう・・・  低い唸り声をあげ、激しく顰めっ面をして鋭い牙を剥出し、涎や鼻水をダラダラ垂らし、目を血走らせた1匹の薄汚れた雑種犬が、ライバルの野良犬達に喧嘩を売っていた。  名前を『エス』と呼ばれた。  『エス』は、初めに飼っていた飼主が付けた名前だった。  かつては、とても温和な犬だった。しかし今ではその飼主にゴミ溜めに捨てられ、流浪の末、このような狂暴な野良犬に変貌したのだ。  エスには、捨てた飼主への激しい怒りしか頭に無かった。  そして、エスを挑発してくる野良犬どももそうだ。  ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!ばうっ!  ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!ぎゃん!  毎度毎度どっかしらでエスは縄張り争いに巻き込まれ、歯向かってくる相手の野良犬どもと喧嘩を挑まれた。  噛みつき、蹴飛ばし、また噛みつき・・・  きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!  「ふう・・・ふう・・・やっと退散した・・・」  ごつん!!  今度は石が飛んできた。  ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!  「薄汚い野良犬!!あっち行け!!しっ!!しっ!!」  人間の悪ガキ達が、エスに向かって石を投げつけてきたのだ。  「痛い!!痛い!!痛い!!痛い!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!」  野良犬のエスは逃げた。  ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!  「あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!あっち行け!!」  逃げても逃げても逃げても逃げても、執拗に悪ガキ達は、石をエスにぶつけて追いかけてきた。  ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!ごつん!!    「きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!きゃいん!!    
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