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やっぱり帰ろう。
そう思って、立ち上がったが、自分がズボンを履いてない事に気付く。
僕は仕方なく、脱衣所をノックし声をかける。
「あの……やっぱり、僕失礼します」
しかし、返事はない。
ただ、中からゴソゴソと動いている音は聞こえている。
僕は、やむおえず扉を開けた。
女性は、脱衣所にしゃがみこみ、背中を向けている。
しかし、服を着ていない。
「……あの……ズボンを……」
声をかけると、女性はゆっくり振り向いた。
その口元には、僕のズボンがくわえられていた。
ズボンは唾液で濡れて色が変わり、口元からはクチャクチャと音がして、少しずつ手と歯で、引きちぎりながら、ズボンを食べている。
ズボンの足は、もう太もものあたりまで、無くなっていた。
僕は、急いで脱衣所を出て、玄関のドアを開けようとした。
しかし、そこには何故か内側にいくつもの鍵の差し込み口が付いていて、ドアが開かない。
胸の鼓動と、頭痛がどんどん強くなり、声にならない声が口から漏れた。
僕は、立っていられなくなり、玄関に座り込む。
だんだん暗くなる視界に見えていたのは、少しだけ扉の開いた靴箱に、
ぎゅうぎゅうに詰められた、様々な靴だった。
僕の耳には、激しい胸の鼓動と、近づいてくる足音だけが、聞こえていた。
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