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はじまり_03 リセット
特別貧乏でもなく、特別裕福でもない。
しかし、どちらかと言えば裕福な家庭に汐沢××は生まれた。
幼い頃に両親は離婚し、母親に引き取られて育ったが、毎月養育費が振り込まれていた為生活に困る事もなく。たまの贅沢ができる程度には裕福な暮らしだった、と今なら分かる。
そうして何事も順調に思えた幼少期だったが、小学校の頃から不登校気味になり、中学に上がってからは完全に引きこもりになってしまった。
この頃の自分は、思い出したくもない黒歴史だと××は思う。
今振り返っても、この時の思考も言動もさっぱり理解出来ない。昔から中二病の傾向はあったものの、中学に上がってからは本格的に悪化したのである。ここまで改善出来たのはもはや奇跡に近いと××本人ですら思ってしまうほど酷かった。まあ、その話は割愛しよう。思い出すだけで悶えたくなってしまうので。
思うに××はコミュニケーション能力が壊滅的だったのだろう。人と接する事も苦手で、その場かぎりの社交辞令もよく理解していなかった。そんな××が集団生活に溶け込めるはず無かったのだ。
アニメや漫画、ゲーム等の世界にハマりこんだのはそういった事が原因だったのかもしれない。
夢や希望がある世界。現実とは違って暖かくて--だからこそ憧れた。羨ましかった。
そんな××ではあったが、当時通っていた中学校の勧めで市の管轄の通級学級に通い始め、もう無理だと思われていた進学も、通信制の高校ではあるが合格し、なんとか社会復帰を果たす事が出来た。
けれど--。
(……最底辺の学校だった)
はぐれ者の集まるその高校は、非常識的な人間が多く、中途半端に真面目な××には合わなかったのだ。
一つだけ良かった事があるとすれば、それはその三年で無事厨二病を脱して、趣味の合う友人が数人出来た事だろうか。
オススメのゲームとか、アニメとか、色々話したのはとても懐かしい記憶だ。
高校を卒業した後、××がそのまま就職したこともあって徐々に連絡していた頻度も下がり、今では連絡が来ることも無いけれど。
それでも、たまにカラオケで遊んだり、趣味の話に花咲かせられた数少ない友人であった。
唯一××に心残りがあるとするならば、それだけだろう。
そう、それだけなんて酷く軽薄な人間なのだろう、と××は自分でも思わなくもないのだ。
でも、人間の本質というか、その個人を形作る根本的なモノはそう変わるものではなく。
湧き上がった本音を隠す事も出来ない。
(相も変わらず、私は薄情な汐沢××をしているわけか……)
--??
××----??
ふっと××の意識が浮上した。
(名前……、何だったっけ?)
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