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はじまり_01 目覚めるとそこは
…………。
何も見えない、暗闇。
その中に一人、佇んでいた。
幽かな光すら差し込むことの無い空間は、けれど不思議と恐怖を感じさせない。
曖昧な意識は未だ纏まることもなく、暗闇の中で停滞するばかりだ。
そうして、どれほど佇んでいただろうか。
ずっと真っ暗だった世界に、仄かな光が差し込む。
それは目を閉じれば消えてしまいそうな程に、か細い光だ。
(…………光)
無意識に、光に向かって手を伸ばす。
そこに何の意思も存在しなかった。
咄嗟に身体が動いていたのだとしか、言いようが無い。
そして掌が光に触れた瞬間、引きずり込まれるようにして意識は浮上した。
曖昧な意識が徐々に覚醒し、視界がクリアになっていく。
暗闇の世界から一転して、明るい世界へ。
「うーん、朝………………?」
徐に気怠い身体を起こした。
ズキッと頭痛がして、額に手を当てる。
「いっつ……。 今何時? 仕事、……仕事行かなきゃ」
ゆっくりと周りを見回す。視界に、日に照らされた部屋が映る。
部屋の中は日が差し込んで、とても明るかった。
そう、日常の中でもとても珍しい事に。
「寝坊……!?」
ぼーっとした思考から一転、血の気が引いた。サッと青褪めると、飛び起きるようにベッドを飛び降りる。
「先輩にまたドヤされる!あー、昨日もミスして怒られたってのにこれで寝坊なんてしたら!マズイ、マズイ」
慌てて服を着替えようとしたころでようやく異変に気が付いた。
--自分の部屋じゃない。
少なからず、自分の記憶にはこんな広々とした部屋は無い。
よくよく見れば家具も絨毯も何もかもが違っていた。
愕然とする。ならば、此処は一体誰の部屋だろうか、と。
否、そもそも、誰の家なのか。
何故自分は此処で寝ていたのだろう。
混乱した頭でどれ程考えても、答えを導き出す事さえ出来なかった。
「外……」
外を見れば場所だけでも分かるのでは?
ようやくそこへ思い立った××は、開け放たれた窓から外を覗き込んだ。
「嘘……」
緑の木々が視界を埋め尽くす。
森。それは正しく森に違いなかった。
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