はじまり_02 現実

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日が完全に暮れて、辺りの風景が暗くジメジメとした雰囲気に変わる頃。 しばらく座り込んだまま放心していた××は、ふと我に返る。ぐううう、などと気の抜けた音を鳴らす腹の虫に、本来の目的を思い出したのだ。 「お腹空いた……」 これを言うのは一体何度目になるだろうか。最後にご飯を食べたのは何時だっただろう?此処に来てからというもの時間の感覚があまり無い。少なからず目が覚めて、自分の身体が幼い少女に変わっていると気が付いたのは昨日だったはずだ。 (でも一日か…) 丸一日食べないだけで、こんなにお腹が空くのだと××は一つ感心する。 ぐるるるるるるっ! 「はぁ……。もはや猛獣の鳴き声じゃない」 なんてそんな事を考えている場合ではない。空腹は耐え難いものになっていくばかりなのだから。 しかし、思いがけない火事場の馬鹿力……というべきか。に驚いて、思考停止してしまっていたのは痛い。 元々日暮れまで時間が無かったというのに、放心していた間に外は真っ暗になってしまった。 これでは当初の目的のように悠長に食料探しなどしてはいられないだろう。 血の臭いを嗅ぎつけて、いつまた新しい魔物(モンスター)に襲われるともしれないのだ。 流石にもう一度スプラッタな光景を見たくはない。思い出してぐっと苦い顔をした。 こんな小さな身体の何処にそんな力が有ったというのだろう。改めて見る魔物(モンスター)の死体は無理矢理強い力で叩き切ったような、抉りとったような荒い傷口を晒している。 それもそうだ。剣等の切れる得物を使ったわけではなく、その辺に落ちていた少し大きいだけの木の枝を振り回しただけなのだ。綺麗な切り口であるはずもない。 弱そうな見た目に反して、周りが飛び上がるほどの身体能力の高さを発揮するのも、転生(?)物のお約束的なものだろう。 ただし、死後の世界のような場所で神と出会い、お詫びとして特別に力を与えられたわけでも、死んだ後気付いたら赤ん坊に転生して、2度目の人生を新しい家族の中で送るわけでもなく、森で一人放り出された現状ではあるが。 「こう、色々と不親切過ぎるよね。何も説明も無いし。説明役の人が居ても良くないかな。この世界がそもそもどんな所なのかも、何一つ分かってないんだけど……」 独り言ちる。そうでもしないとやってられないのだ。 ないない尽くしのこの状況。拠点になりそうなのはあの屋敷くらいで、いつ電気(なのか分からないが)が切れるか分からない。水も水道らしき物から出るかもしれないが、いつまでも出るか保証も無いのだ。ならば水も探さなくてはならないだろう。 ああ、本当に。2度目の人生(?)はサバイバルからなんて酷い差別だ。 それになりよりは、食料問題が深刻である。 この身にサバイバル知識なんてありはしない。まあ、あったところで此処は異世界であるし、あまり役に立たなかったかもしれないが、無いよりはマシだろう。 (もう、食べれたら何でもいい。何でも良いから何か ……) 空腹のあまり虚な目で周りを見回した時、それが目に留まる。 先程倒した魔物(モンスター)の死体。 (魔物と言っても肉であることに変わりはない、よね。ようは肉は肉だし。焼けば--) 「…………って。いやいやいやいや! 」 自分の思考に驚いて、ぶんぶんと頭を振った。追い詰められているとはいえ、流石にそれはない、と。 「……でも、どのみち食べられる物が分からないなら、食べてみるしかないよね」 比較的安全そうな木の実を見つけても、それが安全かどうか。魚を捕まえても、毒が有るのか否か。何の知識も無いのだ。何れ通らなくてはならない道なのではないだろうか。 チラ、ともう一度死体を見た。倒してからそのまま放置してあるので、何ら変わることは無い。特に虫が集っている様子も無いので少し安心する。 「焼けば……食べれるかな。多分。…………大丈夫だよね、うん大丈夫」 後ろ向きなことには人一倍自信があるが、その場の空気に飲まれてか前向きに決めてしまう。いや、ただ単に空腹に負けてしまっただけかもしれないが、かくしてサバイバル生活の幕を開けることとなった。
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