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狼の魔物の死体を一体右肩に担ぎ、えっちらほっちらと歩く。左肩にはもう一体同じ狼の魔物の死体を乗せていた。
血の匂いに寄せられてやって来たのを今度はあまり傷付けないように倒すことに成功したのである。
力の加減は難しいけれど、この身体は大変頑丈な作りをしているらしい。自分の身長の何倍も有る魔物を二体担いだくらいでなんとも無いのがいい証拠だが……やり過ぎな気もしなくもない。まあ、気にしても仕方ないだろう。
(さて、………どうするかな)
緩かな坂になっている地面にポイッと魔物を放り投げて、××は腰に手を当てた。
「……とりあえず、皮を剥ぐんだっけ?」
無謀も無謀。獣を捌いたことなんて勿論ない。参考になりそうなのは興味本位で見た熊の解体動画ぐらいなものだが……如何せん昔の記憶だ。何処まで当てになるのか。
××は記憶を探りながら準備を始める。洋館の中から持ってきた包丁やノコギリ等を地面に広げた布の上に並べ、その中からナイフを手に取った。
専用の道具らしき物は見つからなかったので、使えそうな物をキッチンから漁ってきたのである。
この洋館、人が居ないくせに物だけは一通り有るので、違和感だらけだ。有難くはあるものの、釈然としない。
しかし、今は解体中なので思考を切り替えた。
まず、顎から肛門の上あたりまでナイフを入れて、手、足は関節の部位から外してから剥いでしまう。それから毛皮を破らないようにナイフで慎重に皮を剥いでいく。この時毛皮を破くと肉に毛が付いてしまい、余計な手間が増えてしまうらしいので、それに気をつけるのも忘れない。
ナイフを見つけられたお陰で、覚束無い手の動きでも思ったよりはすんなりと皮を剥ぎ終わった。……肉が随分とついてはいたが。
剥いだ皮を下敷きにして、次の段階に移る。その前に、皮剥に使ったナイフを置いて包丁に取り替えた。一応念の為に変えた方が良いだろうと思っての事である。今更かもしれないが。
そして内臓を取り出す為に腹部、胸部を開く。この後は内蔵を傷付けないように取り出す作業になるが……。
狼の肉体構造を知らないので、様子を見ながら慎重に手を進めた。慣れない手つきで内臓を抜き取っていく。肋骨等の根元の硬い骨をノコギリで開いた時、少し内臓に刃を引っ掛けてしまった。
「やっぱ難しいな、これ」
顔をを顰めながらも、硬い魔物の肉に四苦八苦して、なんとか一体目の解体を済ませる。そして一体目の失敗を生かして、初めよりは慣れた動きで二体目の解体を終わらせたのだった。
達成感からか口から、ふう、と大きな息が漏れた。
解体が済んだ所でこのまま食べれるわけではない。とりあえず血で濡れたナイフや包丁、そして自分の手を水で流しにキッチンへと戻る。
埃を被ったままのその場所は、日本の一般家庭にある台所と似た構造をしていて、普通に蛇口から水が出るようだ。だが、ガスコンロに当たるものは無い。竈らしきものもないので、火を起こすなら外で焚火をしなくてはならないだろう。
幸い此処は森のど真ん中である。薪広いには困らない。洋館の周りから火種となる小枝や枯葉を集め、薪となる太い枝は見つから無いので軽く木を倒して拝借する。
(ホームセンターが有ればこんな面倒な事も無かったのに……)
日本では基本的に下に落ちている枝や松ぼっくり、市販の薪使うそうだが……生憎と此処は日本ではない。すぐ近くにホームセンターなんていう便利なお店も無く、薪を買うことも出来ないのである。悪戯に木を採伐しているわけではないが、少し罪悪感を覚えた。
石を隙間を開けながら小さな丸の形に並べ、かまど作りをする。中心に着火剤になるものを置き、あらかじめ用意しておいた木の板を一枚と丸く持ちやすい枝を手に火を起こしを試みる。
どちらも元々都合よく置いてはいないので、当然有り合わせで用意したものだが……、板はノコギリで切ったものの綺麗に切れずに斜めになっているし、鑢もかけていないので滑らかな段目とは程遠い。いや、初めはそんなものだろう、と見なかったことにした。
木の板の下に太めの薪を置いて安定させて、垂直に枝と板を擦り合わせるように手を回す。昔小学校時代に校外学習で体験したやり方だ。前のように便利な道具もないし、やり方も色々と違うけれど、とりあえず何とかなるだろうか。
(…………)
…………。
(……………………)
黙々と回す
ひたすら手を動かして、枝を回し続ける。
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