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「普通だよ。まぁ色々って感じ?かな。」
少し間をあけて、考える振りをして答える。
「好きな人とか、できた?」
粒が揃った美しい歯並びが見える。
インプラントではない、自前の歯だ。成り上がりではなく本当に育ちがいいんだろう。
しかしこの男。今日はこの男をオトしに来ているというのに。私を試しているのか、それとも鈍いのか。
「鈍いわけないわ。」
美咲は即座に自分の考えを否定する。
彼が人の気持ちに鈍感なはずがなかった。
彼は人からは分かりづらいが、プライドが高く、計算高い。そして誰よりも繊細な目を持っていた。
それを普段は隠しているが私にはバレバレだった。
人を見る観察眼は看護師をしている私よりも上だろうか。女の勘のほうが優れているというが…。
あたかも自分は恋愛の登場人物ではないという他人行儀な発言は、どちらにせよ美咲を苛立たせた。
背筋を正したまま、目を伏せてナイフを見つめる。
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