一滴

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世界一の人口過密都市、東京。 多種多様な人間が集まるこの場所は、様々な感情で溢れている。 幸せそうに恋人の隣で微笑む者。 趣味に明け暮れる者。 何の目標もなく、ただ時の流れに身を任せる者。 日々の生活に疲れ果てている者。 この世を恨む者。 少し街を歩くだけで、頭が痛くなるほどの心の声が聞こえてくる。 欲、欲、欲…。 種類は違えど、人の心は欲だらけ。 『クヤシイ…。ユルセナイ…。コロシテヤリタイ…。コロシテヤリタイッ!』 あぁ、何処かで甘美な言葉が紡がれている。 行かなくちゃ、声のする方へ。 早く、早く、早く…。 ゆっくりと歩を進めていた足は、次第次第に早くなる。 声の主を見つけ、足を止める。 声の主は駅前の植込みにうなだれるように腰掛ける男。 どす黒い感情で身を包んだ男に近づき、耳元でそっと囁く。 『何故我慢をするの?憎いんでしょ?殺したいんでしょ?楽に、なりたいんでしょ?』 男の感情を煽り、感情を吐き出させるように仕向ける。 この男に何があり、誰を恨んでいようと関係ない。 ただ堕ちていく様が見たい。 男はゆらりと立ち上がり、ふらふらと歩き出した。 彼氏と思われる男の腕に自らの腕を絡ませ、幸せそうな笑みを浮かべる女の姿だけを虚ろな目に映し近づいていく。 その姿を見て、思わず口が歪んだ。 男は鞄の中に隠していた刃物を手に取り、女にむかって振り下ろした。 何度も、何度も、何度も…。 感情なく薄笑いを浮かべる顔は返り血を浴び、男を止めようとする人々を容赦なく切りつけた。 辺り一面血の海になり、悲鳴が上がり狂気包まれる。 平穏なはずの1日が、地獄に変わるのはなんて簡単なんだろう。 透き通るほど綺麗な水面に、真っ黒な羽根を1枚落とすだけ。 ただそれだけで羽根から溶け出した黒が波紋とともが広がり、あっという間に真っ黒に染めてしまう。 まるでウイルスのように感染して、皆真っ黒に染まってしまえばいい。 そう、私の背中に生えたこの漆黒の翼のように…。
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