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脱いだスーツをハンガーに掛けるのももどかしく、僕は部屋着のズボンをずり上げながら引き戸を開けた。居間の灯りが僅かに漏れ込むだけの室内は黒々とした輪郭がぼんやり見えるだけで、僕は急いで照明のスイッチを入れる。すぐに全てが光で照らされる。
壁には折り紙で作った色とりどりの輪飾り、テーブルには皿いっぱいの唐揚げとプチトマト、ゆで卵の入ったポテトサラダ、インスタントのものではないコーンスープ、真ん中には苺の載ったホールケーキ。もちろんロウソクが挿(さ)さっていて、そしてテーブルを囲むのは三人の女性だった。僕に向かい合う位置に座って微笑んでいるのが理沙だ。
「ただいま」
僕は部屋へ入り、皆に声をかけた。返事はないし、理沙はどろどろと黒い血を零してテーブルクロスを汚している。あとの二人に至っては見る影もない。
それでも今日も皆が僕を祝ってくれていることをたっぷりと十分ほど確認し、僕はそっと灯りを消して戸を閉めた。
僕はもう、誕生日が嫌ではなかった。
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