プロローグ

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両肘、両膝から先を切断され頭上へ並べられた若い女性の死体。 その悪趣味なオブジェの如き死体を目の当たりにした幸子は、大きく目を見開きながら立ち尽くす。 もしも今が夏ならば、きっと今以上に強烈な腐臭が鼻腔を蹂躙してきただろうし、この死体の腐乱も更に進みそのえげつなさを増していたことだろう。 とは言え、現在の腐敗の進行具合から考えても、ここに放置されてそれなりに時間が経過しているのは確実。 そんな非現実な塊から、幸子はジリジリと後ずさる。 掻き分けたばかりのススキのような枯れ草が元に戻り、グロテスクな存在を視界から消した。 「…………」 数秒間、目の前に群生する草を凝視し震えていた幸子は、意を決したように踵を返し大橋の前まで早足になりながら移動する。 そうして、ついさっきと同様に人の姿を探しキョロキョロと周囲を見回すと、急ぐように警察へ電話をかけ始めた。
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