第一章

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            1 十一月三日、水曜日。午後四時半。 一日の行程が終了し、クラスメイトのほとんどがいなくなった教室で、湖月 芽愛(こづき めい)は苦笑いを浮かべながら立ち尽くしていた。 今いる場所は三年C組。 湖月が所属するのは隣のB組であるためここは自分のクラスではないのだけれど、既に授業もホームルームも終わった放課後にそんなことをいちいち注意してくる真面目な存在など周囲にはいない。 窓際から二列目の、後ろから二番目に当たる席。 その席に座り、地球の終わりを目前にでも控えたかのように頭を抱えため息をつき続けている友人を、湖月は呆れと同情の入り混じった表情で見下ろしていた。 「……幸子、大丈夫? 気が滅入ってるのはわかるけど、帰ろうよいい加減。外、暗くなっちゃうよ?」 チラリと見やる窓の外は、寒々しい夕暮れの赤に染まっている。 あと三十分もすれば、太陽の光はバイバイをして山の向こうへ去ってしまう。
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