プロローグ

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このことを友人たちへ話した際に、凄いだの立派だのとおだてられたりしたものだが、だからと言って特に目標があるわけでもない。 部員の中で一番になりたいとか、全国大会に出場して良い成績を残したいなどの考えや欲求は一切持っておらず、ただ単に高校卒業までの六年間は継続してやりきってみるという、漠然とした思いを浮かべての行動でしかなかった。 実際、幸子はそれほど成績優秀な部員ではない。 普段の練習も大会本番も常に手を抜き、その中において当たり障りない位置をキープするように加減をしてきた。 この早朝ランニングのように自らの意志で始めた楽しいことには本気になれるが、それ以外の興味の薄い事柄にはどこまでも適当で無関心なのが布施 幸子という人間の一番の特徴であろう。 少なくとも、幸子自身はそう自己評価している。 (まぁ、どうでも良いけどね) そんな己の積み重ねてきた六年の回想を鼻息一つで吹き飛ばし、幸子は人の気配が希薄な暗闇を走りだす。
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