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「…………」
穏やかと表現する以外にないくらい静かな波の音を聞きながら大きく深呼吸をして、幸子は橋の先へ意識を逸らした。
この大橋を抜けた先は、店などがほとんどない工場や寂れたアパートなどが立ち並ぶエリアとなり、一気に面白みの薄れる空間へと変容してしまう。
そのため、日中はまず立ち寄ることのない場所ではあるのだがこのランニングのときだけは特別で、大橋を渡りきってから少し先にあるコンビニでジュースを買って飲むまでが幸子の行動パターンとなり定着している。
そこから今度は同じ道を引き返し家まで戻り、軽くシャワーを浴びた後制服へ着替えて登校という流れが日常だった。
だから、本当なら今日もまたそういう一日の始まりを迎える予定だった。
ランニングを再開し、大橋を渡り終えた幸子は橋の入口のすぐ脇にある草むらへチラリと視線を向けた。
ぼんやりとした外灯の光が照らすその草むらは、冬でも緑を残す草やすすきの残骸のような枯れ草が大人の背丈ほどにも伸びその先の光景を覆い隠している。
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