王子様とボク

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 他にも、国章をあしらった暖炉。  壁側に目を向けると、銀色に輝く鎧が、もしお声がかからなければ千年でも万年でも、忠実なしもべとして王子様の命令を待っているかのように佇んでいる。  厳かな色合いの絨毯。その上にはこれもまた重厚な色彩を放つ、洗練されたクロスがかけられたテーブル。  どれも生まれて初めて見るものばかりだった。  あぁ……なんて素敵なの。 「どうしたんだい? そんなキョロキョロして」 「んーん……なんでもありません」  タムは身じろぎをして恥ずかしがった。  そしてこうも考えた。こんなところに自分が入ってしまっても良いものか? と。 「それより。まだ名前を聞いていなかったね。僕は王子だよッ。よろしくね。キミは──」 「タム! タム・キャリーです!」  タムは思いのほか自分の声が大きすぎたことに、驚くとともに、恥ずかしさのあまりキュっとアゴを引いて、上目遣いに王子様の顔を覗き見ることしか出来なくなってしまった。  そんなタムの心の内を知ってか知らずか、王子様はふ~っと溜め息を一つ入れて、 「嗚呼、なんて優雅な名前だろう!」  そして目を閉じ、口の中で何度も”タム””タム”と唱えはじめた。  と、次の瞬間には、目をぱっと見開き、矢継ぎ早に、あれも、これもとタムを質問攻めにした。 「どこに住んでるんだい? この近くなのかい? 毎日どんなことをして暮らしてるんだい? 馬術は? 朗読は好きかい? キミの家庭教師はサロンへ出入りするのはまだ早いなんて咎めたりするのかい? 午後のお茶の時間にはいつも何を食べるてるの?」  こんなにも自分に興味を持ってくれた人は、生まれて初めてだ。恥ずかしいやら、こそばゆいやらで、王子様が口を開く度に、タムの頬はピンク色に染まっていった。  しかし、次の言葉を耳にして、タムは夢心地から一気に現実へと引き戻された。 「奴隷は? そうだ、奴隷は何人抱えてるんだい?」  王子の言葉に、小首を傾げるよう頭を傾け、目を閉じてうっとりしていた表情が、その言葉で、一気に本来のタムへと引き戻した。  両肩をきゅっと上げ、胸の前で両手を重ね合わせていた手が、残念そうに解かれ、両の拳を宙で握り締めていた。 「ん? どうしたんだい、タム?」  王子様に悪気は無かった。だがそれは悪気がないだけに性質(たち)が悪い時もあるのだ──。
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