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タムに王子様の隠された真意など知る由もなかった。貧しい生まれの子が、奴隷を何人抱えていることなど、貴族や王族に取ってただの尺度の一つでしかなく、言うなればそれは社交辞令的な挨拶のようなものだなど、ましてや午後のお茶に出るクッキーの種類に、如何ほどの意味も持たないことなんて、酔っ払い亭主の子がどうして知っていようか。
もしタムが、王子様が質問責めにした本当の理由が、”初めて持てた友人”をまだ帰したくないからとの思いで、「そろそろ帰らねば」を言わせないための方便であったと知ったのなら、王子様が言った「奴隷」という言葉も、そこまでタムを落ち込ませることにはならなかっただろう。
「いえ。あまりも王子様が、矢継ぎ早にご質問されるので、ちょっと戸惑ってしまっただけ……」
タムは口角を上げて、上品に笑って見せた。
「いや、タム……私は」
「いーえ。全然っ気にしていません。どうぞお気を遣わずに」
と言って寂しそうに笑った。
自分を嗤ったのだ。
きっと王子様の奴隷が着ている服でさえ、わたしのこの服なんかよりも、もっとずっと上等なんでしょうね……。
叶うことなら、わたしは王子様の奴隷になりたい──。
などと思ってみたところで、そう易々と城のお仕事にあるつけるでもなく、首を横に振りそんな都合の良い妄想を振りほどくタムであった……。
*
タムは気を取り直して、王子様の質問に一つ一つ丁寧に答えていった。
しかし、住んでいるところを答える段になって、口ごもってしまった。
「住んでるところは……」
それもそのはず、父親は働きもせず、ほぼ毎日大酒を喰らう穀潰しで、自分の家と呼べるものを持ったことがなかったのだ。
そして今、城の中でも二番目に豪勢な王子様の部屋にいるのだ。
この部屋一つとっても、庶民が親子三人で暮らしたとしても尚、十分な広さを有している。タムは自分の親が家を持たないことが、とても恥ずかしいことのように感じた。
迷った挙句、タムはこんな街の名前を口にした。
「丘の上のクリーン・ケイフル……」
「おぉぉ! あそこかーっ。それはまた遠いところから来たんだね、今日は」
「え?」
思いもよらない返答にタムは心底驚いた。
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