その者静かに燃えゆ

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それは非合法の世界。 車が好きで、走るのが好きで、夜が好きで。 『走り屋』と呼ばれて、名乗っている奴らが集う裏世界。しがらみから解放され、魅せられた者達の楽園。 安全なサーキットではない。路面は荒れているかもしれない、落石があるかもしれない、対向車が来るかもしれない。 街灯やカーブミラーさえ設置されていない場所もある、ガードレールを破れば谷底へ落下、エスケープゾーンは著しく少ない峠道。 あまりに危険と言えるこの場所で何故走ろうとするのだろうか、何十年も前からその者達は走っている。 誰かが止めても新しい誰かが走り出す。走り屋は決して消える事無く死ぬことが無い。表の世界を生きる者からすれば理解不能だ。 ―――この世界じゃないとダメだ、この夜じゃないとダメなんだ、この夜はお前達を待っている 男も女も、若造も年寄りも、どんな職業だろうが、どんな車だろうが関係ない。夜の世界は、裏世界は全てを受け入れてくれる。 一つとして被らない様々な想いを抱き、夜に灯される同類を誘う蛍火。魂を賭けて夜を駆ける。 自慢できる事じゃないけど、馬鹿なお遊びかもしれないけど、何だかんだで数十年……上手くやっている。今でも走り屋の魂は息づいている。
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