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「ママ、帰らないの?」
テレビ電話の向こうに大学生の娘の顔があった。同じモニターに表示されている時刻は午前零時だ。
「アオイ、ごめんなさいね。急に仕事が入って」
朱音はずっとニュータイプを救い出す方法を考えていた。
「いつものことだからいいけど……。顔色が悪いわよ。ちゃんと食事をとってね」
娘の言葉で朝から何も口にしていないことに気づいた。
「分かった。おやすみ」
朱音は電話を切り、事務所を出る。ニュータイプの寮に足を運び、3701号が寝ている部屋のドアを開けた。室内は暗く3701号の顔を見ることはできなかったが寝息は聞くことができた。
2年ほど前、アオイにニュータイプに名前を付けないのは何故かと問われたことを思い出す。その時は彼らに愛情を持たないようにするためだと応えたが、今、自分がニュータイプを愛おしくて仕方がないことに気づいた。それが個々の存在に対する愛なのか、生物一般に対する普遍的な愛なのかは分からない。ただ、危険な場所に彼らを送り込むことが苦しいと感じた。
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