検診

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生命科学研究所の千坂朱音(ちさかあかね)博士はDNAを合成して放射線に耐性のあるチサカ細胞を創造し、その細胞を分化させてニュータイプを生みだした。そのニュータイプが順調に成長していることを確認するために、月に一度、放射性物質除去技術者養成センターを訪問している。 センターは人工出産施設コウノトリで生まれたニュータイプを育て、彼らに核関連技術を教える教育施設だ。医者はいないから、医療行為となる検査は朱音自らが行っている。もっとも、ニュータイプは戸籍もなければ一般国民も知らない法律の外側にいる存在で、医者以外の者が彼らに治療行為を行っても医師法に問われるようなことはないのだが、彼らに関わる研究者や教育者にとって、人間と全く同じ姿かたちをしているニュータイプの身体に注射針を刺すのには抵抗を感じていた。 その日は普段と同じニュータイプの検診日だったが、内閣府の官僚が立ち会うことになり、診察室の空気は若干緊張していた。 「3702号ね。ちょっとチクッとするわよ」 朱音は目の前に座った全裸の3702号の首に下げた名札に眼をやる。彼らは、全く同じ容姿容貌を持っていて、朱音にも3701号と3702号の区別ができないからだ。 「はい。大丈夫です」 3702号は感情のない声で言うと、朱音の背後に立つ白衣の似合わない男に眼をやった。
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